黄金の雨

原文:神奈川県南足柄市


塚原の奥に長泉院という立派な寺がある。

むかしのことだ。

ある男が、大だな小だなというところまで薪をとりに行ったんだと。

いっぱい集めたんで、
「さて帰るべ。」

チロッと足元を見ると、太い枝がおちている。
「せっかくここまで来たんだ、のこでひいていくべえ。」

薪をおいてよく見ると、なんとなんと、枝と思ったのは大蛇の胴だった。

大蛇は男をにらみつけると
 ズルズルズ──ズルズルズ──
と、どこかへ姿を消してしまった。

男は、腰をぬかしてしまい、やっとのことで家にたどり着いたと。

そしてそのことを板屋長者(名主)に話したそうな。

「それは、山の主にちがいない。」
板屋長者はお坊さんにたのんで、お経をあげてもらうことにした。

大だな小だなの滝の近くにくると、どこからか、いびきのような音が聞こえたと。

お坊さんは、
「こりゃちっとやそっとじゃ動かんぞ。」
と七日七晩お経をあげたんだと。

すると、にわかに空が暗くなり、大蛇がうなり声をあげて、天にのぼりはじめた。

三人が頭をかかえて地面に伏していると、空から
 バランバラン バラバラ
雨にまじって何やらかたいものが落っこちてきた。

しばらくすると、空がすっきり晴れて、もうどこにも大蛇の姿は見えなくなった。

あたりを見渡すと、なんと水たまりに、ピカリピカリ黄金のウロコがいっぱい散らばっていたんだと。

解説:塚原、岩原の山間地帯には、いろいろな伝説が伝わり、土地の名として残っている。「犬くびり」「黄金塚」「太刀洗川」などで蛇伝説と結びついているのは、かっての勢力争いの名残であろう。
このお話の長泉院は、板屋窪にあり、いかにも黄金の雨がふりそうな雰囲気をもっているお寺だ。

『語りつごうふるさとの民話』
(小田原青年会議所)より

追記