弁天様のお使い

神奈川県海老名市


戦前の藁葺きの納屋などの屋根は、寿命の限りそのままだったので、青大将などが鼠を餌に住みついていたものだった。五月ごろになると長々と這っているのを見たり、抜け殻を発見したものだった。養蚕部屋の上にもよく青大将がうごめいていた。

大谷の清水に弁天さんがある。蛇は弁天の使いというが、ある人がひとつ試してみようとした。笊を祠の前に置いて、どうか家にお招きしたいので笊に入ってください、といったのだ。すると、本当に青大将がするすると笊に入ってしまった。

その人が怖くなって、どうぞ一人でお先に行ってください、というと青大将の姿はかき消えたそうな。その弁天様も、清水は枯れてしまって、石の祠も草に埋もれている。藁葺き屋根も見なくなり、青大将にもお目にかからなくなった。

『海老名むかしばなし 第1集』
(海老名市秘書広報課)より要約

追記

文中はっきりとは書かれていないが、ゆえに弁天さんの蛇が蚕をネズミから守ったのだ、という話ととって良いだろう。相模川東では、相模原市の大沼の弁天さんなどが養蚕守護の弁天として知られたが、このような里の小さな石祠(資料に写真がある)の弁天さんもその役を負っていたということだ。

このようなお使い蛇の姿をいたずらに見ようとすると恐ろしい思いをしたりするものだが(「借りて来た大蛇」など)、ここでは比較的穏やかな次第で済んでいるといえる。