おっつもりの島さん

神奈川県大和市


頭が弱いがたいそう働き者の島さんという人がいた。時間がわからないので昼に帰ってくる時刻がまちまちで、困った兄嫁が、太陽が頭上にきて、自分の影の頭が踏めたら昼だから帰りなさい、と島さんに教えた。

それで島さんは影の頭を踏もうと頑張ったが、まだ朝で影は先へ先へと逃げてしまう。それでも飽きる事を知らない島さんは影を踏もうとし続け、自分の畑を越えてどんどんと北へ行ってしまった。

島さんが帰らず畑にもいないので、神隠しかと村中大騒ぎになって捜索をした。すると夕方になって疲れ果てた島さんが帰ってきたが、影の頭を踏もう踏もうと進み、やっと踏めたと思ったら、もう人影もない知らぬ土地であった、という。どうにか家を見つけて尋ねると、そこは八王子のよばり山であったそうな。

『大和伝説と民話 第一集』田近道円
(大和市教育委員会社会教育課)より要約

追記

竜蛇の話ではなく、また伝説というよりも、村の変わった人の笑い話という話。しかし、影の頭を踏もう踏もうと進んだら呼ばわり山に行ってしまった、という構成は目を引く。

「よばり山」というのは呼ばわり山・八王子の今熊神社のことで、安閑天皇の皇后が行方不明になり、武蔵今熊神社に祈願するよう霊夢があり云々、という社伝がある。周辺神隠しなどあった際、呼ばわり山に行くと帰ってくる、という信仰があった。

島さんが大和市のどこの人だかわからないが、今熊神社は鶴間から数えても十里近くはあるだろう。実はその間、相模原市共和(淵野辺新田)の新田稲荷神社にミニチュア版の呼ばわり山が勧請されているので、もしかしたら島さんはそこに行ったのかもしれない。