越中へ行った大蛇

原文:神奈川県厚木市


越中富山(富山県)の行商の薬屋が各地を廻って薬を売って歩いたのは昔は多かった。

或年の夏の事である。富山の薬屋が千頭部落(厚木市飯山)を廻って薬を売って歩いて居た。その千頭(せんず)の亀井(かめい)と云う小部落を訪れた時、家々を廻って次の様な話をして居た。「私の国の或る家に見知らぬ女中が働いて居た、その家でお茶を馳走になりながらその女中に話かけてその生国を尋ねて見た、ところがその女中が面白い事を話して呉れた、私は相模国の飯山村の亀井と云う部落に棲んで居た大蛇ですが、昨年の夏の小鮎川洪水の際にその部落が被害を受けた時弁天祠も流され大蛇も共に流されて、後に海を渡りこの越中国へ流れついたと云う。そして大蛇の化身が私であると語った。」驚いた薬屋は相模地方に行商この飯山を訪れて尋ねると亀井の地に今も弁天様が祀られてあった。越中富山にも弁天様が祀られてあると云う。

『厚木の伝説・厚木地名考』
鈴村茂(県央史談会厚木支部)より

追記