権現さまへお使いに

原文:神奈川県秦野市


御門(本町元町)に彌坂神社があります。彌坂神社のことをまた「天王さん」とも言います。神社の裏側はがけ続きになっていてくずは川が流れ、その辺りは「天王下」と呼ばれています。川を少しのぼると「竜が淵」と言うところもあります。

さて、その昔、この天王下あたりは清水があちらからも、こちらからもコンコンと湧き出し、たくさんのさかながすんでいましたそうな。そのさかなと仲よく一ぴきの大きな大きなへびが住んでいましたと。

ところでそのへびの仕事は湧き出る水の番人であったそうな。

いく日も、いく日も日照りが続きますと、コンコンと湧き出る清水にも変化が起きるのだそうだ。するとへびは、のこのこと動き出しお使いに出かけるのですと。

どこに行くのでしょうか?

彌坂神社の東側の方向に、高さ二百五十メートルそこそこの山があります。

その山の名は「権現山」と呼ばれて、頂上に権現様がまつられているのです。

へびはその権現様に「雨を下さい」とお願いに上がるのです。
「神様、神様、日照りが続くようです。」
「どうか雨をお願い申し上げます。」
と、言いながら農作物のようすを申し上げましたそうな。

すると、権現様はへびの願いをお聞き下され、すぐに雨を降らせて旱ばつからお救いくださいましたと。

その時、へび様のお通りなされたあとは、山頂まで草が両側になびき残されていたそうです。

本町 天野博喜さん・榎本静男さんから伺いました。

『丹沢山麓 秦野の民話 中巻』岩田達治
(秦野市教育委員会)より

追記