体を溶かす蛇いちご

原文:神奈川県秦野市


「食いっこらやるべえ」と、おそば。昔は食うこととか着ることぐらいが関の山で、そんな高級な遊びなんかできなかったんですから。「そばの食いっこらやるべえ、負けたほうがそば代出すだ」と。勝ったほうが、食い得だということをやったわけだ。余り自信のない男と大食いの男が賭けをした。自信のない男はね、そのシンネ(ママ)は取っていた。何かというと、蛇いちご、蛇いちごは蛇が卵を飲んだり、大いたちを飲んだとか何とかした場合に、蛇いちごを食べるとその骨や何かが溶けちゃってそして何でもなくなる。そういうことを聞いていたので、蛇いちごは食べた物を溶かすということを聞いておったから、よし、じゃ、いつ何日にやってみようと。それで蛇いちごをたっぷり用意して、出かけてやったんだね。そしたらもうある程度になったら嫌になっちゃった。とても食えないと。「いや、おれは小便に行って来るから」と、「ああ行って来いや」なんて言って行ったっていう。いつまでたっても帰って来ない。おかしい、逃げちまったのかと思って、便所がくさいから便所を見てみたら、ソバだけ便所にあって、そいつの形がなかったって言うんだ。そしたら、ソバは溶けないでね、人間が溶けちゃったと、こういう話があるんだ。(戸川)

『秦野市史 別巻 民俗編』(秦野市)より

追記