馬の磯

原文:神奈川県三浦市


御座の磯の近くに馬の磯という少し高い長い磯があった。海とは全く無縁な馬の名がついたのには次のようないわれがある。

昔鎌倉のある長者の娘が急に居なくなった。聞けば竜宮に連れて行かれたという。気が狂わんばかりに泣き悲しむ両親を見かねた腰元は、その家に飼われた馬に向って
「お前は畜生でも御主人の悲しみは分かるであろう。長年飼われた御恩返しに御姫様を探しにいって呉れまいか」と言った。馬は早速お姫様を探しに一目散に駆け出したが、道は遂に海に尽きてしまった。そこが三崎の花暮海岸で、ふと見ると磯に一匹の亀がいたので
「竜宮はどっちの方か」
と聞くと、亀は沖を指して
「竜宮は遠い遠いあちらの方で、お前なんかが到底行けやしない」
と答えた。それを聞くや否や馬は急にがっくり崩れるように海へ身を投げてしまった。それが馬の磯となったという。

『ちゃっきらこ風土記 漁師町の民俗ノート』
内海延吉(三浦市教育委員会)より

追記