頭なしの森

原文:神奈川県茅ヶ崎市


今宿より寒川村田端に至る県道に沿いて今宿の鎮守、松尾神社あり。昔時境内大樹多、うっそうとして昼なお暗く行人まれにして寂しき所ありき。人絶え、街道さびしきたそがれに籠をかつぎ、その後より十数人かなたより来りこの所を通り過ぎたり。この一隊は婚儀の送迎の道すがらであった。のち籠をおろし、縁女はと見れば驚くなかれ死せる体にしてしかも頭なく、悲嘆のほかはなかった。時過ぎ考うれば必ずかの森でさらわれたるに相違ないと思惟し、恐ろしさにおびやかされていた。それ以後婚儀の送迎は勿論、行人といえども回り道することとなった。故にこの道を花女郎道と名づけ、かの森を頭無しの森と称するに至れり。(茅ヶ崎市文化資料館編『茅ヶ崎町鶴嶺郷土誌』〈資料館叢書2〉、昭和五十一年、茅ヶ崎市教育委員会)

『茅ヶ崎市史3 考古・民俗編』
(茅ヶ崎市)より

追記