蛇女房

原文:神奈川県小田原市


小賀沼村の旧姓筑井氏は、虎杖の名笛というものを家宝とし、雨乞いの折には、女がその笛の由来を語る例になっている。

むかし、この家の先祖に、笛の上手があった。その人を大蛇が慕って、美女に化けて来て妻になった。やがて一子をもうけて出産の時、産屋の中をのぞくなと戒めたにもかかわらず、ひそかにのぞき見をしたために、蛇体を現わして帰り去って行った。その時、一人の子のために、千両箱を残して置いたのを成人するまでに人に盗まれた。そこで、海の辺に出て、母を呼んでもう一度それを乞うと、あの千両箱は自分の片眼だ。今一つやれば自分は盲になるが、わが子のためならばそれも惜しくはない。ただ目の見えない母の手引きに、一つの釣鐘を鋳て鳴らしてくれといってかえったという。

出典 柳田・昭七・一九頁。『話の世界』大正八年三月号から引く。
類話 集成一一〇〈蛇女房〉(一六八)。

『神奈川県昔話集 第一冊』小島瓔禮
(神奈川県教育委員会)より

追記