蛇がくれた雨

原文:神奈川県藤沢市


日照りが続いて田植も出来ない、そんな年のこと、畑から帰る途中の村人が、鎮守さまに立寄り、掌を合せ、「どうか雨を降らせてもらいたい。」と頭を垂れた。あまりの暑さに、汗を拭きふき、森陰の鐘楼に腰を下して一服すると、片隅に一匹の蛇が〝とぐろ〟を巻いていた。それを見た農夫は持っていた天秤棒で突っつきながら、「この日照り続きで、村中が困っているというのに、お前はいいナ」と、一人言を言い置いて家に帰った。

すると、どうでしょう、その晩に雷鳴が轟いての大雨、一夜のうちに田圃には一面に水が張られ、村はこぞって田植が出来た。数日後、先の農夫が何気なく釣鐘堂に立寄ると、大きな蛇身の抜殻が鐘に巻きついてあった。驚いた農夫がこのことを村の人達に伝えると、
「あの雷雨は、その蛇が天に上り、八大龍王となって恵みの大雨を降らせてくれたに違いない。」
村中の話題となって広がった。〝雨は蛇が降らせるもの〟と、遠い昔から信じられていたから、このことがあってからというものは、旱魃の時には、巳の日に、鐘楼から下ろした鐘に水を掛け、地区内を担いで廻り、雨乞いをした。

少年の森にある溜池の中程に島がある。その小さな祠にも蛇を奉った。水欲しさ、水恋しさの村人の心の内が偲ばれる。

『打戻郷土誌』郷土誌企画編集委員
(打戻郷土研究会)より

追記