水底に光る星月ノ井戸

原文:神奈川県鎌倉市


行基と井戸の話は鎌倉の極楽寺にも伝えられている。極楽寺の登り口にあるこの井戸は「星月ノ井」とも「星月夜ノ井」とも呼ばれて、そばに虚空菩薩堂が建っている。

天平二年(七三〇)に行基が全国修業の旅をしてこの土地へ来たときに、井戸の水底に三つの星が光るのを見つけた。光は岩に映って、七日間鏡のごとくに輝いていた。不思議に思った行基は土地の人にたのんで井戸の水を汲みあげてもらった。すると水の底からは、黒く光る不思議な形をした石が出てきた。これは水の精の化身にちがいない。

この話が聖武天皇(七二四〜八四八)の耳に入って、天皇からは菩薩像を彫ってまつるようにとの指示があった。井戸からこの石をすくい出してからは井戸の中に星の光はなくなった。

井戸のそばに建っているお堂を「星月寺」と呼び、お堂の裏山は「鏡山」と呼ばれるようになったという。鎌倉の枕詞は「ほしづきよ」であるのもおもしろい。

『三浦半島の民話と伝説』菊池幸彦
(神奈川新聞社)より

追記