蛇柳

原文:神奈川県鎌倉市


柳原には、一本の古い柳の大木がありました。半ば朽ち枯れたように幹が地べたを這うような形をしていたそうで、梅の木でいえば、臥龍梅のような格好をしていたのでしょう。むかしの鎌倉絵図には「蛇柳」という名で図示され、鶴岡境内での一名物になっていました。そして地に伏している幹は大きなうろになっていて、その中には一匹の大蛇が棲んでいたのだそうです。

ある時、一人の盗人が役人に追われて、逃げ場に窮したあげく、蛇柳のうろの中に隠れました。盗人は見つからないように身を縮めて、出来るだけ奥深くもぐり込もうとします。すると、うろの奥にいた大蛇が鎌首をもちあげて、盗人の足を細い舌で舐めた。びっくりした盗人はすこし上へ這い上る。するとまた大蛇が舐める。またすこし這い上る。そんなことを繰り返しているうちに、とうとう盗人はうろの外へ押し出されてしまい、ちょうどそこへ来かかった役人に捕らえられた、という話です。しかし、この大蛇も後に八幡宮が焼けた時、焼け死んでしまったそうです。

『かまくらむかしばなし』沢寿郎
(かまくら春秋社)より

追記