龍と鳩

神奈川県鎌倉市


円覚寺を開いた無学祖元禅師は、北条時宗に招かれ宋より来朝したが、ある日、円覚寺の弟子たちに深い因縁のあったことを語ったという。宋において座禅を組んでいると、気高い神人が現れ、自分の国へ来て仏法を広めるよう頼んだというのだ。

神人は繰り返し現れたが、どこのものかは名乗らなかった。いつも金色の龍と青い鳩を連れて来ており、龍は禅師の袖に入り、鳩は膝にとまるものだったという。そのうちに時宗の招きで鎌倉に来たが、神霊いやちこな社といわれ参った鶴岡八幡には何百羽という鳩がいた。

鳩は八幡の使いなのだと聞いて、禅師はあの神人は鶴岡八幡だったのだとさとったという。それで禅師は自分の示寂後に姿を刻むことがあったら、膝に鳩を袖に龍を添えて彫り、この因縁を伝えてほしいと語ったという。

『かまくらむかしばなし』沢寿郎
(かまくら春秋社)より要約

追記

円覚寺の開山に関しては以上のような伝説があり、それで開山塔にある禅師の木像の椅子には龍と鳩が刻まれているのだそうな。さて、時宗の招きで来た禅師の話ゆえ、八幡(の鳩)というのは良いのだが、龍はどこに行ったのだ、という話ではある。

実は、一方で円覚寺は江の島弁天との縁の深さを語る寺でもある。円覚寺の弁天と江の島の弁天は夫婦であるのだというのだ。しかも、その縁をとりもつのが大鐘という、これも面白い話だ(「大鐘まつり」)。

龍にはそのあたりのことが示されているのだろう。円覚寺と鶴岡八幡の間にあるまたの大寺・建長寺も江の島の守護を語る寺だが(「乙子童子」)、鎌倉北条三つ鱗の寺というのはそういうものなのだ。