鍬呑み大蛇

神奈川県横須賀市


これは祖母から聞いた話です。

昔、男の人が畑へ踏鋤(ふずき)ふみに行きました。あまり暑いので一服でもしようと踏鋤鍬を立て、上に上衣をかけておきました。木陰で一服していると急に辺りが薄暗くなり、突然、大蛇が現れて、見る間に立ててあった踏鋤鍬を一呑みにして去っていきました。

上衣がかけてあったので、人間と見間違えたのでしょう。しかし、蛇に織物(鍬も)は禁物なので、やがて苦しくなった大蛇は水を飲みたくなって河原へ行き、そこで死んでしまったそうです。その骨を捨てるのに、俵が何杯も必要だったということでした。(衣笠・長沢房治郎)

『古老が語るふるさとの歴史 衣笠編』
(横須賀市)より

追記

踏鋤鍬を呑んだ大蛇の話としては、横須賀市でも衣笠からは武山の向こう側になる子安の里で語られたものがよく知られる(「鍬までのんだ大蛇」)。これはそれが子安を離れて語られていた事例、といえる。

話が面白いので広まっていた、というだけかもしれないが、もし周辺の各里で語られるようであったとすると要注意ではある。子安でも衣笠でも再話ではないものは、ただの鍬でなく踏鋤鍬であるとことわるのだが、そこに必然のある話だったのかもしれない。

また、こちら衣笠の話では「蛇に織物(鍬も)は禁物」とあるところも目を引く。鍬が禁物というのは、蛇は鉄を嫌うという各地でいう話だろうが、それよりも織物が禁物だとしているのは聞かない話だ。脱皮に失敗した蛇のイメージでもあったものだろうか。