鍬までのんだ大蛇

原文:神奈川県横須賀市


昔から働き者ぞろいのこの村ではみんなが一年中、野良仕事にせいをだしていた。

ところがある日、村の男が一人で畑にでかけ、せっせと畑を耕していると、突然、畑に大きな穴がポッカリあいた。

びっくりして中をのぞきこむとびっくりぎょうてん。男はいきなり「ウー」と大声をあげてのけぞってしまったのである。

それもそのはず、穴の中からニューッと首を出したのは、まぎれもなく話に聞いた大蛇の鎌首だったからだ。

びっくりした男は、それでも気をとりなおし、呑まれては大変と、手にしていた「ふづき鍬」を畑に突きさすや、自分の着ていた野良着をそれにひっかけて、後もふり返らず、いちもくさんに逃げだした。

重い野良着をぬいだ男は、軽装になったので、かなりのスピードがでたらしい。もうだいじょうぶと思ってふり返って見ると、大蛇は穴からはいだすなり、野良着がかけてある「ふづき鍬」を見て男と思いこみ、あっというまに鍬もろとも呑みこんでしまった。

鍬をのんだのだからたまらない。大蛇は苦しみもだえてのたうちまわった末にとうとう死んでしまった。

それからというもの、子安には主が在なくなってしまったのである。

『三浦半島の伝説』田辺悟
(横須賀書籍出版)より

追記