天沼

神奈川県相模原市南区


上鶴間の山野の通り(旧道)へ抜ける道、鹿島台小学校の前を少し入ったところを天沼といった。戦前までは少し低い湿地で、少し雨が降ると小学校の横の道路まで湖のようになった。むかしは、花女郎(花嫁)はこの道を通ってはいけないと言った。

『相模原民話伝説集』によると、天沼には大蛇が棲んでいて、美しい女が通ると沼の中に引きずり込むというので、嫁入りの行列は通らないことになっていたという。

『相模原市史 民俗編』
(相模原市総務局総務課市史編さん室)より

追記

座間美都治の『相模原民話伝説集』にあるとあるが、単独の稿があるわけではなく、地域の概要の中に引かれた程度のことが書かれているだけだ。『おおのなかの歴史と伝承』にも同程度の記述がある。

そのようなわけで、詳しい話があるものでもなく、鹿島台小学校の周りというのもすっかり均されていて面影というのもない。しかし、相模原にはこのような花嫁行列の通行を禁ずる場(殊に橋)の話が多く、中で竜蛇が関係している事例として記憶しておきたい。

また、武相に渡る周辺というと、池沼の主が通りかかる人(殊に娘)の影を取るという話の分布があり(「影取り池」など)、この天沼もそのような話だったのではないかという気もする。

逆にいえば、藤沢戸塚・川崎有馬・多摩唐木田とあった影取り池の各々も、おそらく嫁入り行列の禁を語っていたのではないかということでもある。