鹿と大蛇
原文:神奈川県相模原市緑区
ある老人の話です。
佐野川の三国山の山続きに板落しという所があります。そこに、たくさんの鹿が住んでいたそうです。
1人の狩人が鹿狩りに出かけました。板落しについた時には、まだあたりは薄暗く、一服して東の空の明るみを感じているころ、何やら動物の動く気配がしました。狩人は銃をすばやく一発。玉は大鹿に命中し、ほっと我に返った狩人は一瞬息をのんだ。大きな岩の上に見たことも、聞いたこともない大蛇が、がま首を伸ばしていまにも飛びかからんばかりの体勢でいるではありませんか。
狩人はふるえる手で大蛇めがけて「ズドン」と一発、大蛇の長い胴体は、もがき苦しみ岩の上からころげ落ちました。この鹿は大蛇に追われていたことがわかりました。
射止めた鹿をかつぎ、急ぎ足で家に戻った狩人は、大声で女房に大猟を知らせました。しかし、そのときすでにこの狩人の女房は、鉄砲の玉に当って死んでいたそうです。
不思議な出来ごとに、苦しみ、悩み、それからと言うものは狩人は鹿狩りを止めて、大蛇と鹿の霊をなぐさめたそうです。
(ある古老の話から 楢島利正 記)
『むかし むかし』
(藤野町広報委員会)より