おひの森の大ひのきの話

原文:神奈川県相模原市緑区


相原の二八六番地を、もとは「おひの森」といった。そこには相模の国で三本の中に数えられるという大きな檜の木があった。土地の人からは、「おひのき」と呼ばれていた。その木はちょっと枝が折れても、たたりがあるというので、人々は恐れて近よらなかった。ところがある年の台風の際、その大きな枝の一部が吹き折られてしまった。部落のものは「何かたたりがなければよいが」とびくびくしていたが、案の定、流行病が大変にはやって、人々を悩ました。

そこでみんなして相談をして、三七二十一日の間一心こめて厄除け祈願をした。その満願の二十一日目の夜明け方、急に大夕立になり、天地もくずれるばかりに電光がひらめき、雷鳴がとどろき、やがてこの大ひの木に落雷した。宙天高く火の柱が立ちあがったかと思うと、さすがの大木も一瞬の中に焼け落ちてしまった。

いつか夜もすっかりと明けはなれ、風もおさまって見ると、今までうっ蒼とおい茂っていた大木がなくなったあたりの様子は、なにか忘れ物でもしたかのように、さっぱりと明るくなってしまった。ただその根っこだけが残ったが、そこには大きな空洞(うつろ)があった。その空洞の中に何かあるようなのでよく見ると、大蛇の白骨があった。この「おひのき」の主ともいうべき大蛇は、「おひのき」と運命をともにしたものと思われる。村人たちは改めて白骨をお祀りした。

『増補改訂版 相模原民話伝説集』
座間美都治(私家版)より

追記