大蛇をまたいだ話

原文:神奈川県川崎市宮前区


宮前区初山

これはコビキをしていた上の家のじいさんが先輩から聞いた話だという。

コビキの仕事で朝早く、暗いうちに初山の池のふちを通ったら、でっかい松が池のふちにたおれこんでいた。

「こんな所に松の木がぶっ倒れていた」
と思って、何の気なしにそれをまたいで行った。

帰りに見るとそのでっかい松の木がなくなっていたので、まわりを見まわしたが松の木を伐った跡もなかった。しかし、変だなと思ってよくみると、何か大きな物をひきずったようにずっと草が寝ていて、それが神戸(ごうと・現、神木二丁目)の長谷戸の方まで続いていた。

朝、松の木だと思ってまたいだのは大蛇だった。

話者 宮前区神木本町 猿渡豊作
採集 昭和六三年一月

『川崎物語集 巻四』川崎の民話調査団
(川崎市市民ミュージアム)より

追記