諏訪社の御神体

原文:神奈川県川崎市中原区


中原区木月

江戸屋(中山宜男宅)の先祖が野良仕事にでていると、はげしい夕立がきた。しばらくは雨宿りをしていたが、この降り方ではお守りしている諏訪さまが流されるのではないかと急いで帰ってきた。

案の定矢上川は増水し、諏訪社は流れる寸前だった。先祖は藤づるを手に、今にも流されそうな社を境内の立木にしばりつけるべく野道を走ったが、すでに遅く、濁流が諏訪社のまわりに渦まき、島のようになってしまって社にはたどりつく術もなかった。

すると、どこからともなく太い杉丸太が諏訪社に橋をかけるように横たわった。これ幸いとこれを駆け渡り、社を立木にしばりつけることができた。

帰るとき杉丸太を渡って、ちょっと変な丸太だと感じ、後ろを振りむいたが、もう杉の丸太は影も形もなく、あるのはうずまく濁流のみだった。この瞬間、諏訪社のご神体は大蛇であると聞いたことを思い出し、あっ、あれがご神体だったのか、と合点した。大蛇が助けてくれたのだ。

『木月村覚書』八〇頁

※この社は現在、住吉神社に合祀されている。

『川崎物語集 巻六』川崎の民話調査団
(川崎市市民ミュージアム)より

追記