味の素に蛇を買ってもらう

原文:神奈川県川崎市川崎区


あと、もう一つ。後で印刷物(読売新聞・「地震揚げ」の記事のコピー)あげるけどね、大地震が起きて、夏で暑い時でしょ、食べる物がないのと、昔だから水は川やなんかあるから、なんとかなるんだけど、食べる物が緊急でなくなっちゃったのね。ここいら、家はかなり倒壊したけれどもね、火事が出なかったんで立ち直りが早かったんだけれども……。味の素っていうのは小麦粉で味の素作るんだね。

味の素の話には……。河川敷のところに、いきなり工場ができたんだよね。ちょうど、ここいらがそうなんだけれども、川が流れてて湿地帯で(土壌は砂質で)一面の梨畑だったわけ。蛇がうじゃうじゃいる所だったわけ。そこへ、いきなり変な化学工場ができて、うまみ調味料なんて、得体のしれない物を作り出したわけ。そいでもっと悪いことに、宮武外骨とかって、歌を作ったり、その頃の文壇人の一人が言い出したんだけれども、「味の素は蛇から作った」って。

それから香具師がね、蛇の黒焼きを大道で売る時にね、
「これかけりゃぁ美味いんだ。なぜかわかるか、今、評判の味の素って、これから作ってるんだ」
って、やるわけよ。だから、まわりじゅう、蛇で作ってると思われちゃう。

なもんだから、このまわりの人が、蛇が、またここいらにいたんだよね、捕まえて、
「買ってもらいに行くべぇ」
って、売りに行ったわけよ。

※『スコブル』24号(宮武外骨・主筆 大正7年10月)の記事が掲載されている。

面白い懸賞
一、味の素の原料は何ですか?
二、次ぎの文章の中にある片仮名を順次に綴り合せると何と云ふものになります??
池田博士発明の味の素は小麦の蛋白質を原料として精製したものだと云って居ますが、小麦だけでは彼様な好い味が出ません。実は何処の山野にも産する匍匐動物の肉を原料として精製するのですが、之れを明らさまに公表いたすと、皆様が●ヘーとばかりに●ビっくりして御使用にならないだらうと思い、極々秘密にして居るのであります。
鈴木商店

類話:味の素は蛇を使っている

私はデマじゃないかと思うんだけどね、味の素は蛇使ってるから美味いおかずのかわりに、あんな粉ができたんだって、蛇を粉にしてこしらえたんだってデマでしたね。越して来て、湯屋が気が利いた(規模の)工場でした。私も覚えてるけどね。それがだんだんでかくなったんです。だから、あそこは蛇を殺してね、それでダシを作ってるんだという話はありましたよ。だから、そこらの田の中へね、蛇の皮なんかうっちゃられたら困っちゃうな、ってね、話も出ましたけど、そんなのは(実際には)なかったけど。まぁ一言、あそこは蛇使ってるんだよ、と、そういう話は聞きましたよ。澱粉でやってましたんですからね。

その澱粉を、麦の粉、とったかすで、久寿餅を拵えたの、門前で。味の素からできたのか久寿餅の始まり。今は岐阜の方から原料をとってるって話ですけどね。

蛇の話も出ましたよ(味の素に)行ってる人は、
「そんなことないよ」って。入ってる人に聞いて、
「お前んとこの会社、蛇、使ってるのか?」
「そんなことないよ」
って。ひとつのデマじゃなかったかって……。そこの澱粉で久寿餅屋さんが……、売った。それが始まりでしたね。

(川崎区大師駅前 元農業・昭2年より燃料販売 男性 明41年)

『川崎の世間話』
「川崎の世間話」調査団
(川崎市市民ミュージアム)より

追記