練り廻る茅の大蛇

神奈川県横浜市鶴見区


生麦の字源に祀られる神明宮の祭は六月六日。この日は茅で作った五六丈もある大蛇が神前に供えられ、宮の周囲を三度廻った後、青年や子供らに取り縋られ、町内を練り廻る。家々の門を一軒残らず訪れ、悪病に悩む者でもあれば、土足のまま踊りこみ、座敷から台所まで隈なく大蛇を差し向けるのであった。

これは厄病神を脅して追払う為めというのである。しかし、この頃は座敷へは上がらなくなった。それでもこの土地はこの行事によって、昔から悪病が流行ることなどがなかったという。まことに横浜三奇祭のひとつと言えるだろう。

『横浜の伝説と口碑・下』栗原清一
(横浜郷土史研究会)より要約

追記

生麦の源というところの神明宮とあるが、これは「原」の神明宮で、今もある(生麦神明社)。大蛇はすぐ近く生麦本宮地区の道念稲荷神社からも出る。もともとはこの二社合同の祭だったという、すなわち有名な「蛇も蚊も(じゃもかも)」である(この名はお囃子中の文言による:「道念稲荷と蛇も蚊も祭り」)。

また、同地域の藁茅の大蛇は、生麦に限ったものではなかった、という点を押さえておくのが重要となる。おそらくは、房州に今も見る道切りの蛇と同じような風習がよくあった、ということなのだ。北寺尾のほうでは、そのあたりがはっきりと語られている(「蟠まる魔除の大蛇」)。