蛇を稲荷に祀った話

原文:東京都大田区


うちの隣の人の、ほんとのことなんですよ。

昔ね、八幡様の六月のお祭りでね、遊んでるの。お祭りが一週間あったんですよ、六郷のお祭り。そいでね、あんまり退屈で、ドジョウさくい行った。八幡様の横田へ。ブッテってもんで、ドジョウすくい行った。そしたらね、そこぃね、八幡様の木からね、あすこへ、かまやどりへ落っこって、ドシンつってね、音がしたんですって。そいで肝をつぶして見たらね、フーフーってんですって、蛇が。そいでね、その人はね、蛇に泥をぶつけたもんだからね、毒気吹っかけられちゃったんです。蛇に、息を。そいで、その人は熱病を患った。

そういうことは、ほんとにあった。そいでね、こんだぁその息子がね、一代法華ぇ信心したからね、そいでね、拝んだらねぇ、それがね、霊に出たんですって。霊に出てねぇ、あんまりおっかなくって、そいで、どのぐらい長さがあるかって調べたら、二間半あった、蛇が。それは、ほんとの話。これは、ずいぶん古い話。その息子がうちへ来てねぇ、そういったこと話したんですよ。それは、昭和の初め、ほんとにあった話。そいでね、それがねぇ、蛇がねぇ、祀ってくれってんですって、神に。そいであすこはねぇ、あんまりおっかなくってねぇ、神に祀ったんですよ。お稲荷さんに祀ったんです。(戦災で)焼ける前まではあったんです。その家は、いまはいないけどね。昔、むこうで、六郷で隣合ってたんです。南町でね。だから、そのことは、よく知ってるんです。

八幡様に、そんな大っきな蛇が。二間半あったって。そいでね、それは、うそじゃないんですよ。毒気を吹っかけられて、家ぃ帰って来て熱病患って、それが治って。その息子がうちぃ来て話したんだから、うそじゃないんですよ。それは、うちの親からね、ずーっと伝わってる。そのおじいさん(蛇にあった)てのも、わたしたち、子どもの時、知ってるんだから。〔八幡塚 男 明治27年生〕

『口承文芸(昔話・世間話・伝説)』
(大田区教育委員会)より

追記