蛇を稲荷に祀った話

東京都大田区


うちの隣の人の話で。昔、六郷の八幡様のお祭りが一週間もあって、退屈もあって八幡様の横田へドジョウすくいに行ったそうだ。すると、八幡様の木からドシンと音がして、見ると蛇だった。それでその人は蛇に泥をぶつけたもんで、毒気を吹きかけられて熱病を患ってしまった。

今度はその息子が一代法華を信心して、拝んだら二間半ある蛇が霊に出た。これはその息子から聞いた話だ。昭和の初め。それで、その蛇が祀ってくれと言ったので、お稲荷さんに祀っていた。戦災で焼けるまではあった。

『口承文芸(昔話・世間話・伝説)』
(大田区教育委員会)より要約

追記

多摩川最下流部左岸側一帯の総鎮守格の神社である六郷神社は、源頼義・義家による創建と伝える八幡宮。その神使いは蛇だといわれ(「六郷神社のお使いひめ」)、上の話もその蛇が障ったという了解でよいだろうと思う。

周辺は八幡・稲荷に蛇の話がよく見えるのだが、上の話はその両者をつないでいるところが面白い。蛇を稲荷に祀る流行があったようでもある(「上田のお稲荷さんの白蛇」など)。

概ね境内の樹木に蛇が棲みつき話題となるのが流行の発端のようだが、大森の浦守稲荷の「白蛇の神」などは、稲荷そのものとは別に祀られている。上の六郷神社の蛇の話ははじめに蛇ありきで、それを稲荷と祀っているのだが、そのあたりの差には注意だ。