一本足の蛸

千葉県館山市


ある時、富崎村布良の浜のくぼみに一疋の大蛸が取り残された。満潮のとき来て、潮が引かれたのに取り残されたらしい。これを番太の嚊が捕らえようとしたが、穴に入ってしまった。嚊は微笑んでこれを押さえつけ、その日は蛸の足ただ一本を切り、蛸が出られないよう穴をふさいで帰った。

帰って蛸の足を食べると大変にうまい。そこで翌日も一本切り取り帰り、翌々日もまた一本切って帰った。そうして七日たったが、番太は気にして、なぜ一度に取ってこないかと𠮟ると、嚊は蛸がいつくたばるのかと慰みにしているのだとはつかるので(主張するので)、もう番太は放っておくことにした。

八日目に嚊は最後の足を切り取りに行った。と、その時にわかに潮がさしてき、潮に浸かって力を取り戻した大蛸はたった一本の足で嚊に吸いつき巻きつき引き込んだ。嚊はとうとう沖へ連れて行かれ、帰らなかった。それから地方ではこうした歌が歌われ出した。

〽布良の番太の嚊蛸食って死んだ、蛸は恐いもんだ命とる。

『日本伝説叢書 安房の巻』藤沢衛彦
(日本伝説叢書刊行会)より要約

追記

「蛸の足の八本目」などと呼ばれる話型は九州から日本海側にも太平洋側にも分布するが、房総半島の南には殊に色濃く分布している。お隣三浦半島でもよく語られる(伊豆半島南端にもある)ことも一連の流れと思われる。ここでは、安房で近いところからつないでいこう。

内房に行って、富浦の南無谷の雀島にもこのタイプの話があるが(「大蛸の逆襲」)、その味の虜になったという話。布良のほうでは嚊が蛸をなぶって楽しむような残虐性が悲劇の因となっているのに対し、少々異なっている。

ここがこの話型の特徴でもあり、なぜ大蛸の足を切り取っていくのか、という話の筋の重要な点が、各話でかなり違っているのだ(もっとも多いのは欲だが「七桶」など)。リンクをたどりつつ、その違いを見ていきたい。