中将姫の蓮糸の曼陀羅

埼玉県東松山市


昔、京の中将姫が継母にいじめられ、高済寺に来て蓮池の中で亡き母と会い、蓮糸で曼陀羅を織った。この曼陀羅は中将姫が三日三晩人里離れた村境の機屋で織ったものだという。姫は、その機屋を決して覗いてはいけない、と言った。

ところが和尚がこれを覗いてしまった。姫は、蛇体となって機を織っていたという。そして、覗かれたことを知った姫は、恥ずかしい姿を見られてはもはやこれまで、と曼陀羅を残して姿を消したという。

『埼玉県伝説集成・中巻』韮塚一三郎
(北辰図書出版)より要約

追記

高坂館跡の南にある高済寺の寺宝の話。中将姫の蓮糸曼陀羅というのはいろいろな寺にあるが、ここにはそれを織っていた姫が蛇体となっていた、という大変興味深い話が伝わっている。

これらがどういった信仰文化に基づいているのか現状不詳だが、東に半里ほどの早俣地区に鎮座される小剣神社には糸巻きを持った幟織姫の石造物があり、上の伝説に由来する像だと伝えられている。土地にそれなりの範囲をもって語られた話なのだろう。

一般の中将姫の説話でも姫は継母に虐げられるが、機織りの件ではない。また、最後に姫に来迎が訪れるのがそもそもの話の主眼である。機織り娘の残念が蛇体と化した、という筋(「姥懐ガ池」など)とまた少し違いはするが、間をつないでいく傾向ではあるだろう。