蛇玉ぁ見た娘

群馬県佐波郡玉村町


昔、滝川の近くにはたくさん蛇がいた。昔の人たちは、その蛇が蛇玉(たくさんの蛇が集まって玉のようになっているもの)を見ると、金運が良くなると言っていた。ある土用のむす(暑い)日、村の娘が野良仕事から帰る途中で、竹藪の中にその蛇玉を見た。

スットンスットンと麺を打つような音がするので何かと思って竹藪を覗くと、一尺もある玉がぶゆぶゆ動いている。ようくみると、それが蛇の玉だった。生来蛇嫌いのその娘は近くの畑にいるおっちゃんのところへ飛んで行って知らせた。

俺もひと目見てえ、というおっちゃんが竹藪に走ったが、娘にその場所を聞いてよく探しても、もう蛇玉は逃げてしまってなかった。おっちゃんは蛇玉を見れば金運が良くなったのに、と残念がった。

『前橋とその周辺の民話』酒井正保
(群馬県文化事業振興会)より要約

追記

蛇の宝珠というと、一般には蛇が群がって「こしき」を作っている中に宝珠などがあり、手に入れると金持ちになるなどといい、蛇とは別に「珠」があるものなのだが、ここでは蛇の集合そのものを福を呼ぶ玉と言っている。

これは信州佐久のほうでいう蛇の玉(「福の神の話」)に同じものだろう。そちらでは運ぶ途中にものを言うと玉が消えてしまうなどとあったが、確かにこの玉村の話でも消えてしまっている。

そして、これはどうやらマジカルに消えてしまうというのではなく、蛇は人の動きを敏感に察知してバラバラに散って逃げてしまう、ということらしい(「ヘビダマ」)。それにしても、麺を打つような音がする、とはどういう感じなのだろう。