昔、白石から西之宮金山のあったあたりは、男女の仲がおおらかで、娘の家に男が通うのは公認だったし、好きなものどうしが、人目をさけて、山や河原でむつみあうのもあたりまえだった。しかし、その挙句ある娘が孕んだが、この相手がニシンメエ(地名)の洞穴の大蛇ではないかとの噂が立った。
たしかに娘も色男の相手に浮かれて素性を尋ねていなく、月を重ねてみると胎動もおかしい。なにか長いものが泳いでいるような感じさえする。そこで占いをする人に見てもらうと、やはり腹の子は蛇であると結論が出た。
村の知恵者の助言で、娘を絶食させ、河原で足を開かせ、ヒキタ(ひきがえる)をその前で鳴かせる、ということをした。すると娘の腹の中がぐるぐると動き、蛇が生まれ、ヒキタをくわえると草むらへ消えていった。いくら逢引がいいといっても、ちゃんとした男でなければ、とは年寄りの女衆の言だ。
ニシンメエというのは西之宮のこと。ここは別に、洞穴に住む大蛇が娘に通うので穴を封じ、人も住まなくなってしまった、という話もあるところ(「むこの影」:関東から甲州には珍しい「豆炒り型」の話でもある)。
蛇聟の話がものすごい数語られてきた最大の理由が、要するによくわからぬよその男には気をつけろ、というものであったことは想像に難くない。それが、はっきりそう語られている事例。
話の中にあるように、西之宮は金山があり、穴があり、金を掘るための「よそ者」が多くいたところだっただろう。非常に分かりやすい条件のそろった話といえる。元の文では「なんぼう、あいびきんいいっとうって、ちゃんとしとう男でなけねえな」と村の婆ちゃんがいっているのだが、どこでもそのようにして締めくくられたものなのだろう。
また、蛙で蛇の子を引き出すというのは各地で語れる常套手段の一つだが、西八代郡へ行って四尾連湖のほうにも見える(「蛇男」)。そちらではその蛇聟を子安の神と祀っており、そういう流れがあるものかどうかというのも気にしておきたい。