ヒキタのえさで生れた蛇の子

原文

白石の集落の下を流れる保川は、清流ですから、その水を利用して、町で経営するヤマメピアがあり、ニジマス、ヤマメが養殖されています。

大正のころは、さかんだった西之宮金山のあとも、終戦後まで残っていました。

昔、このあたりの村は、男女の仲はわりあいおおらかで、娘の家へ男が通うのは公認だったし、好きなものどうしが、人目をさけて、山や河原でむつみあうのもあたりまえでした。

そうしたあげく、ある家の娘が赤ん坊をはらみました。ところが、その相手がどうもニシンメエ(地名)の洞穴に棲む、大蛇の化身ではないかとのうわさがたちました。

そういえば娘も、色男の相手に浮かれていて、どこの息子かもしらべていませんでした。

月を重ねていくうちに、娘の腹はだんだんとふくらみましたが、どうもおかしいことに、胎動がちがいます。何か長いものが泳いでいるような感じさえします。

思いあまって親に打ちあけますと、驚いた両親も困りきって、うらないをする人にみてもらいました。

そして、まちがいなく腹の子は、蛇だと結論がでましたが、昔のこととて、手術で出すなどというわけにはいきません。

ところがよくしたもので、村に知恵者がいて、娘に絶食させておいて、河原につれていき、足を開かせ、つかまえてきたヒキタ(ひきがえる)をそばで鳴かせました。

しばらくすると、腹の中がぐるぐると動き、陣痛、破水と同時に、蛇が生れ、ヒキタを喰わえると、するすると草むらに消えていきました。

蛇の子を生んだ娘が、その後、どうなったのかはわかりませんが、「なんぼう、あいびきんいいっとうって、ちゃんとしとう男でなけねえな(いくら、あいびきがいいといっても、ちゃんとした男でなければいけない)。」これは、年寄りの女衆の話です。

三井啓心『早川のいいつたえ(第二集)』より