葉山島の「一の釜」の上に碧くよどんだ淵があった。ある日の夕方、近くに住む権助が、この淵で「おきばり」の釣りをした。夕にうなぎを狙って針を置いて、朝に取りに来る、という釣りだった。
次の朝、まだ暗いうちに権助が淵にやってくると、おきばりには丸太のように大きなうなぎがかかっていた。あまりの大きさに薄気味悪く思っていると、崖の上に白衣白髪の老婆がもうろうと現れ、陰にこもった声で「権助さらばぞ」と言って権助を睨みつけるのだった。
権助は血がいっぺんに引いて腰を抜かし、これは淵の主のうなぎの精だと思って淵に放ち、一目散に家に逃げ帰ったという。