物いう魚

神奈川県相模原市緑区

ずっと前のことだそうだが、相模川の上の方の枝川の、場所はどこだか知らねえが、オトボウ淵というところへ、オキバリをかけに行った男があった。その淵にはヌシがいるといわれていたが、思うめえことか、針にものすげえ大鰻がかかった。あんまりでかくて重いから、頭をぶった切ってうっちゃり、担ぎ出そうとしたところ、男は川の中へぬめりこんで、うっ死んじゃったそうだ。あんでも、その男がオトボウと呼ばれていたので、オトボウ淵と名をつけたのだそうだ。(城山町小倉)

採集者 安西勝。 話者 金子弥三。小倉在住、当時六十余歳。 採集時 昭和二十七年頃。発表文献 安西・昭和三二・二二~二三頁。

小島瓔禮『神奈川昔話集 第一冊』
(神奈川県教育委員会)より原文

しかし、私は「おとぼう」は「乙坊」なのだろうと考えており、端的に乙姫のような水のヌシを示す名なのだと思うが、この小倉で語られた話を見ると「おとぼう」のそういった意味合いはすでに念頭にないのだとも思われる。