しっぽを切られた竜

埼玉県入間郡越生町

昔、竜ヶ谷に大きな湖があり、竜が住んでいた。村人は恐れたが、竜はふだんは湖の底にひっそり静かにしており、夜に時々天に昇りどこかへ行ったという。この竜ヶ谷の竜は雄だったが、名栗の有馬谷の雌竜に会いに行っていたのだそうな。

ところで、竜ヶ谷から有馬谷への途中には高山の不動様があった。雄竜は行きも帰りもこの不動様の上を飛んでいた。やがて不動様は、この雄竜が有馬谷の雌竜に会いにいっていることを知り、激怒した。なんと汚らわしい竜であることか、しかも不動の上を飛んでいくとは、と。

そこで不動様は剣を持って待ち伏せし、黒雲から雄竜が飛び出したところをここぞとばかりに切りつけた。雄竜は危うく身をかわしたが、長い尻尾がかわしきれず、大事な尾がぷっつり切り落とされてしまった。雄竜が驚いて見回すと、お不動様がものすごい形相で再び剣を振りおろそうとしている。

竜ヶ谷の雄竜は、お不動様には敵わないと竜ヶ谷の湖へ退散した。そして、尻尾が切られて格好が悪くなったので、有馬谷の雌竜に会いに行けなくなってしまったそうな。

市川栄一『奥武蔵の民話』
(さきたま出版会)より要約