越上山 埼玉県入間郡越生町 この山は遠く望めば、江戸の方までみえるという山である。 雨がほしい時は、村人は笛や太鼓をならしながらこの山頂に登り、たき木を集めて火をつける。そして上に「雨」下に「龍奉」と書いた赤地の長い旗を持って、 有馬山の竜タツ坊 これへかかれ黒雲 ザアンザと降ってくれ と呪文を唱えながら、その火の周囲をまわる。たき木を不完全燃焼させて、黒煙をもうもうと上昇させるようにする。(神山弘『ものがたり奥武蔵』) 入間郡越生町黒山 韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・上』(北辰図書出版)より 越上山(おがみやま)の雨乞いの話。ここから少し北の龍ヶ谷には昔湖があり、そこの雄竜が有馬谷の雌竜に会いに行っていた、という話があるが(「しっぽを切られた竜」)、地域的にもつながりがあるかもしれない。 その呪文を見る限り、雨は有馬山(飯能市名栗)のほうから来るのだと考えられていたのだと思われ、それを竜の行き来と言い換えてもおかしくはない。竜ヶ谷の竜が両断され二頭の竜になり、一頭が有馬山へ、一頭が越上山に来たのだ、という話もある(「有馬渕」)。ただし、竜の逢瀬の話は、間にある高山不動がそれを不埒と怒ってその道を切ってしまう話ではある。 また、越上山は「拝み山」のことだろうというが、「おかみ山(龗山)」ということはないか、というのもある。まだそれを深く追うだけの材料は見えないが。 ツイート