星の宮の大蛇

栃木県さくら市

星の宮に大蛇が住み着き、怠け者の村人を驚かせるなどしていたが、それにとどまらず、前を通る旅人にも難儀を掛けた。この道は昔の主要道だったので、大蛇の噂で人が通らなくなると、星の宮の虚空蔵さんはすっかりさびしくなってしまった。

そこで虚空蔵さんは雲の上の雷さまと相談し、いたずら者の大蛇を懲らしめることにした。ある夏のこと、物すごい雷鳴とともに、雷さまが大蛇の住む老杉を一撃したのだ。大蛇は老杉もろともに焼かれ、七転八倒の苦しみのうめき声が七日七晩続いた。

あまりのうめき声に、大蛇を憎んでいた人々も憐れむほどだったが、ついに大蛇は死んでしまったという。そして、そのときから、老杉の下の虚空蔵さんが見えなくなってしまった。人々の難儀を救うため、大蛇もろともに自分の身も焼いてしまったのだという。

石岡光雄『氏家むかしむかし』より要約

虚空蔵さんと竜蛇の関係やいかに、という問題に関わる一例だが、二つの方向から考えられる。ひとつは、額面通りに虚空蔵さんが蛇を御する存在であるのかどうか。那須のほうに行くと、虚空蔵さんがあるので蛭が寄り付かない蛇が咬まないなどというところがある(黒羽三霞)。

となると、対立関係とばかりも言えないだろう(そもそも雷が蛇の質のものだという認識も広くある)。そこがもうひとつの方向で、虚空蔵さんが竜蛇神の性質を示すことがあり、この話はそこからのねじれではないか、というものだ。

殊に、話の幕で、虚空蔵さんの石像が、落雷により蛇もろともに消えてしまっている点は注目されるだろう。そもそも虚空蔵さんの神木の化身である大蛇の話だったとしたら、という方向から筋を捉えなおしてみる必要もあろうかと思う。