ぐみ好きな富造どん

栃木県さくら市

上阿久津に虚空蔵さんと呼ばれるところがある。昔、上阿久津に富蔵どんという人がいて、怠けるのが好きで山遊びばかりしていた。その日も大好きなグミを探して、虚空蔵さん(星の宮神社の所)のグミの木まで来た。そして木に登り、夢中になってグミを取っては食べしてた。

すると、どこからか「と、み、ぞ、う、どーん」と声がする。しかし、富蔵どんはグミに夢中で聞いておらず、何度か目のその呼びかけにようやく気がついた。富蔵どんが辺りを見回しても、人はおらず、石の虚空蔵さんがあるばかり。はて、と思ってふと下を見て、富蔵どんは仰天した。

木の下では、ものすごい大蛇が大口をあけて、富蔵どんをひと呑みにしようとしていたのだ。富蔵どんは木から飛び降り、夢中で走ってとある人家にたどり着くと、倒れて気を失ってしまった。怠け者の富蔵どんでも可愛く思う虚空蔵さんが、石の口を開いて危機を知らせてくれたのだった。それから富蔵どんは働き者になったという。

石岡光雄『氏家むかしむかし』より要約

この富蔵どんのお話も、その一角に加わる一例だろう。ここでは虚空蔵さんが産土の神のような立ち回りをして、大蛇から村人(産子)を守っている。しかも、その続く話に見えるように、大蛇との関係はそれにとどまらず語られるのであり、大蛇もただ危機の記号として出てきているというわけではないらしくある。