星の宮の大蛇

原文

という訳で富造どんはすっかり働き者になりました。では、その後日譚。

富造どんを仰天させたくだんの大蛇は、富造どんばかりでなく、この道を通る旅人たちにもしばしば難儀をかけておりました。一本杉から星の宮への道は昔の主要な道路でしたから

「星の宮のところに大蛇が出る」

という噂はたちまちに広がって、自然にここを通る人が少くなってしまいました。

ポツンと立っている虚空蔵さんは、さびしくてさびしくてたまりません。

「さてさて困ったイタズラ者だわい」

とお考えになりました。そこで虚空蔵さんは、同じ雲の上に住む雷さまと相談し、このイタズラ者を少し懲らしめてやろうということになったのです。

ある夏のことでした。物すごい雷鳴がなりひびき、次第に雨とともに稲妻が下界を照らしました。雷さまが大蛇の住む星の宮の老杉の上へ来たとき

「ゴロゴロン、ピッシャーン」

と大蛇と老杉もろともに一撃を加えました。大蛇は老杉とともに身を焼かれて、七転八倒の苦しみをはじめました。苦しみもがく大蛇のうめき声は、七日七晩四里四方にまで聞かれたということです。

このうめき声を耳にした人達は、憎んでも憎み足りない大蛇でしたが、哀れさについ涙したということです。さすがの屈強な大蛇も、七晩目の夜半、遂に息絶えてしまったということです。

 ………………

それからは旅人はもとのようにこの道を通るようになりましたが、これまで老杉の近くにチョコンと立っていた虚空蔵さんの姿が見えなくなってしまいました。人々の難儀をすくうため、その時大蛇とともに自分の身も焼いてしまったのです。

石岡光雄『氏家むかしむかし』より