蛇竜権現

栃木県矢板市

長井畠中の百姓岸五郎どんが奥山へ草刈に行くと、冷たい風が吹き二升樽ほどの太さのある大蛇が現れ、ひと呑みにしようとした。ところが、ちょうどその時岸五郎どんは煙草を一服していたので、大蛇はその煙にむせて、草をなびかせ姿を消してしまった。

秋になり、岸五郎どんが鍬の柄をとりに、また奥山へ行ったところ、前の大蛇が今度こそと追いかけてきた。岸五郎どんは手にした斧を振り回しながら山の上に逃げ上がり、すんでのところで振り回す斧が大蛇の頭をバッサリ截ち割った。大蛇は血をたらしのたうちまわり、岸五郎どんは後も見ずに逃げ帰った。

それから岸五郎どんは寝込んだが、四五日して起き上がれるようになった。しかし、今度はかみさんが大熱を出してしまった。これが何日しても良くならないので行者の婆さんを頼むと、大蛇の精が出、弱いかみさんのほうに祟ったのだと言った。

お祈りをすると大蛇の精は消えた。そして、後に岸五郎どんは塩田山へ行く途中大石のそばに大蛇の白骨を見つけ、これを集めてお宮を建て、蛇神様(蛇竜権現)と名づけて、大蛇の冥福を祈った。

矢板市郷土文化研究会
『矢板の伝説』より要約

話自体は、お百姓さんと大蛇の祟り、というほどのもので、おかみさんのほうに祟った、というところがやや目を引くくらいか。この話で注目すべきなのはその「蛇竜権現」の名前のほうだ。読みがないのでわからないが、「じゃりゅう権現」であるならば、これは崩壊地名の可能性がある。

ともあれ、竜蛇ではなく「蛇竜」と名を付ける例はあまり他に見ることがない。あえてそう名付けたのには何か理由があるだろう。