大蛇とふくべ

茨城県笠間市

昔、笠間の南の吾国山の麓に太平夫婦が住んでいた。子がなかったので吾国山の神に祈願し、夢告に従った三七・二十一日の日参の甲斐あって、女の子が生まれた。ところが喜んだ夫婦が子を抱いて吾国山にお礼参りに行くと、麓の池の大蛇がひと口に子を飲み込もうとした。

夫婦はせめてこの子が成人するまでは預けてくれと大蛇に頼み、その時には大蛇に嫁入りさせるから、と約束してしまった。時が経ち娘が大蛇に嫁ぐ日が来た。両親は嘆き悲しんだが、娘は心配いらない、千個のふくべと千本の針を用意してくれ、といった。

池に行き大蛇が現れると、娘は嫁となる代わりに一つ願いを聞いて欲しい、といった。そして、このふくべをすべて池に沈めてみせてくれと、池に千個のふくべを投げ込んだ。大蛇は必死に沈めようとしたが、沈める側からふくべは浮いてしまい、朝までかかって一個も沈められなかった。

大蛇は疲れ果て、さらにふくべの中に入っていた針で傷だらけになり、死んでしまった。娘は無事両親の元に帰り、幸せに暮したという。(熊倉勇「蛇の伝説」)

『茨城の民俗18(蛇・竜の民俗特集)』より要約

そうであれば、この大蛇が吾国山の神の化身であり、娘が大蛇に嫁いで幕となるのが本来だったのじゃないかと思われるが、途中から蛇聟の大蛇退治に話がシフトしている。ちなみに、吾国山はひと目それとわかる円錐形の山だ。