蛇女房

青森県むつ市

むかし、ある男が大石に潰されそうになっている蛇を助けた。すると何日かして、きれいな女が訪れ、嫁にしてくれといった。男は独り者だったので、自分なんかで良ければ、と所帯を持った。夫婦には女の子が生まれ、四歳五歳にもなった。

しかし、どうしてだか男は女房を蛇ではないかと思いはじめた。そして、蛇ならば苦手のナメクジをけしかければわかるだろうと、そうした。すると、本当に女房は蛇だった。女房は自分はあのとき助けられた蛇なのだと白状し、知られたら一緒には居られないと去ってしまった。ただ、子どもが泣いて悲しがって仕方なかったので、蛇女房はどこに行けば会えるのかは教えてくれた。

そうするうちに、今度は父親(夫)が目を患って見えなくなってしまった。子どもはどうしたら良いか母親の蛇を訪ねた。すると母蛇は、自分の目玉を取って子どもに渡した。

その目玉で父親の片方の目は治った。子どもは片方治ったからもう片方も、と思ってまた母蛇の所へ行った。母はもう片方の目玉も取って渡してくれた。おかげで父親のもう片方の目も見えるようになった。

『むつ市史 民俗編』より要約

一方、地域的に気になる点もある。それは同市の中央には恐山がある、ということだ。「視力」に対しては特異な含意があるかもしれず、「女の視力が失われ、男の視力がよみがえる」と大枠を取った所に意味がある可能性もある。陸中胆沢の掃部長者伝説にも視力が戻るモチーフがある。