蛇女房

原文

むがし、ある所(どご)に、ひとりの男(おどご)ぁいだど。

ある時(どぎ)、山さ、木拾(ふら)に行ったど。木拾ってもどってきたきゃ、道路脇に大っけ石ぁあって、その人(ふと)ぁ歩(あり)って来たら、その石ぁ「ゴロッ」と転んで、そばにいだ蛇の上さ転がったど。蛇ぁ、石にかって動げねど。

「やぁゃ、かわいそうに、まぁ」ど思(も)て、その男ぁ、ほれ、その石、起ごしてけだど。蛇ぁ、助けらぇで逃げでいったべす。今度(こんだ)、その男に、ほれ、嚊無くてぁったんだど。何日がたったきゃ、ある日、ほれ、りっぱだ女(おなご)あ、ほれ、

「嚊にしてけろ」って言(へ)て来たんだど、嚊ねえもんだもの、

「まぁ、そうが、そが、吾(わ)ぁみった者(もん)でもいがったら」って、嚊にしたんだど。

そしたら、今度(こんた)、ほれ、女の子ぁ生まれで、ほれ、四つ、五つにもなってがら、ほれ、どうして気ぁつだんだが、

「変だなぁ」ど、おやじぁ、思ったんだど。へたどごで今度、

「長虫だべがな、長虫だばナメグジラ出しみればわがるな」ど思って、ナメグジラほれ、こうして、嚊さ、のべでやってみだど。

蛇ぁ、ナメグジラきらいだもんだもの、それ、自分さのべらぇるべす、どぅもなんねぇで、白状してまったんだど。

「道路で、こうこうして、石ぁ転んできて、命なぐすべどした時(どぎ)、お前(め)に助けらぇだんだ。何がで恩返してぇど思っても、でぎねぇして、嚊になって恩返すべ。ど思ってこうしたんだ」って。

「吾、その時の蛇だ」て、こう、こどわったんだど。そうと解(わが)ったら、ほれ、はぁ居られながべす。

今度、ほれ、子どもぁ、あるもんだもの、子どもがら別(わが)れで行ぐしかねえもんだもの、彼方(あっちゃ)いって泣ぐ、此方(こっちゃ)きて泣ぐ。

へて、ほれ、子どもば、抱いでみる、はなしてみるど。そして、訳(わげ)、言(ゆ)って。子どもぁ追(ぼ)っかげでも、みるみるどまぁ、別れで行って。

その時、ほれ。

「こういう所(どご)さ、来れば、居るしてぇ、いぎ会うに来てけ」て、言てたんだど。

そしてだら(そうしているうちに)、父親(おやじ)、今度、目患らったど。目患ったどごで、子どもぁ、ほれ、母親ばたずねで行ったど。へたら(そしたら)、ほれ、

「おとうさん、目ぁ悪くて困ってらべ。すたら、これ持ってって、目さ入(へ)ろ」て、自分の目玉とって、子どもさ持だせでよごしたど。

その玉こ、ほれ、蛇の目玉こ、父親ぁ、自分の目さ入だきゃ、すぐ見(め)るんだど。父親ぁ、

「この薬、どごがら持ってきた」っへたきゃ、子どもぁ。

「おっかさん、これ、目さ入でみろって、持ださでよごした。へて、まだほれ(また、それ)良ど思ったら、まだ、来いった(来いといった)」ったど。

そうして、ほれ、父親の目ぁ、片方、見るようになったど。

母親、両方の目玉やれば、自分も困るど思って、片方やったずたって、(やったそうだけれども)

子どもぁ、ほれ、

「まだ悪(わり)がったら、まだ(また)来い」って、言らえだったべし、

「片方ぁ見るようになったして、もう片方も」ど、思って、まだ行ったんだべさ。

そしたら、残った、片方の目玉も、とってまってよごしたんだど。

そして父親ぁ目ぁ、両方見るようになったんだど。

『むつ市史 民俗編』より