弁天様と子供 千葉県富津市 弁天様が人間に姿を変えて種をおろしをした。子供が「父はどうしていないか、一目会いたい」と言うと、母親は仕方なく「弁天様だ」と教える。そのうち目の見えなくなった子供が、思案に暮れて弁天様の祭ってある池の縁で泣いていると、弁天様が大きな蛇の姿でザーザーと泳いできて、尻尾でコチョコチョコチョ三べん祓うと子供の目が開いた。(川端豊彦・金森美代子『昔話研究資料叢書16 房総の昔話』1980.三弥井書店の梗概) 『日本昔話通観9』より 富津市篠部の話とあるが、伝説というわけではないかもしれない。しかし、特異な話ではある。一般に女である弁天さんだが、それが男として語られる場合もある。もっとも、その多くは宇賀神の老翁のイメージとしてであり(「善福寺池の大蛇の婿入り」など)、人間の娘との間に子をなすというのはやはり珍しい。 また、蛇聟といったら多くは一方的に邪なものとされて、その子は流され、娘はショックで死んでしまったりするものだが、ここではそのようなイメージはなく、むしろ蛇女房の性別が逆転した話のような筋になっている。殊に、子の目が見えないというのは、盲目の蛇女房(「竜光山にまつわる話」など)と対応関係にあるように見える。 それらは蛇神との神婚を思わせる、ということなのだけれど、同地にはまた別の形で「邪な蛇聟」というイメージとは違う話が語られもする(「蛇婿の話」)。よりその傾向が色濃く見えるようなら、それはこの土地、海の特色であると言えるかもしれない。 ツイート