板屋町近くに昔大名が住んでいて、そこには大きな池があった。大名には一人娘があって、乳母がついていたが、ある時ふとした病でその娘が亡くなってしまった。大名は乳母が悪いと大変に責め、乳母は申し訳がないと池に身を投じて亡くなってしまった。
すると、これがためか娘が生き返った。そして、乳母が自分のために死んだことを聞いて気の毒に思い、池に行って、自分は生きているから出てきておくれ、といった。乳母は、はい、といって出てきたということである。その池はもう残っていない。
静岡にはこのような子を水で亡くした乳母・姥が入水した「沼のばあさん」の池沼があちらこちらにあり、これもそのひとつであると思われる。最後に乳母が出てきた、というのは生き返ったのではなく、その霊が顕れたという話のようだ。
話としては、静岡市清水区にある「乳母ヶ池」に近いところがあるが、名を呼んで何かが出てくる具体的な現象などがあったかどうかは現状分からない。話にあるように池はもうなく、「うばが橋」という橋が残っているだけのようだ。