足久保に池があった。今は跡があるばかりだが、まだ水をたたえていた頃のこと。水見色の杉橋長者の一人娘の許に夜な夜な通う若者があった。いつの間にか来て帰るので、家人にも娘にも正体が知れなかった。そこで、母はタフ(藤)の糸を若者の襟に縫いつけるよう娘に教え、これで行方を窺った。
追うと若者は高山の頂の古池に姿を没した。主の仕業だったかと怒った長者は、下男人夫を引き連れ池に行くと、巨石を多数焼かせて池中に投げ入れた。耐えられぬ主は下村の鯨ヶ池に逃れたが、この時一眼を失ったという。それで鯨ヶ池の魚は眇となったのだそうな。(美和村誌)