波合村の南に聳える蛇峠(ぢゃとうげ)の頂に、昔大きな池があった。そこに大蛇のヌシがいるので蛇が池と呼ばれた。ある日、その峠の方から見慣れぬ小娘が下りてきて、庄屋の家に入って告げた。峠の池では長く厄介になったが、深見へ行くので暇乞いに来た、と。
知らぬ娘に馴れ馴れしくこう言われ庄屋は困惑したが、小娘が去っていくのを見ていると、波合川に架かる橋の途中でその姿が消え、急に大水が流れ落ちていくように見えた。それでこの小娘が蛇が池のヌシの化身と知れた。
その日、下條の深見の里に大きな池ができたという。蛇峠のヌシの大蛇が娘の姿をして深見の池へ越したのだ。蛇峠の池は今でもあり、雨乞い淵とも呼ばれている。村の人たちは水出を恐れて、平常は一切この水には手をつけないという。