福与区中の沢の入口に、山の神と竜神が祀ってある。
昔、村人がこの前で山のことから大喧嘩をした。これを見た山の神と竜神が怒り、村の堂に住む玄光という坊主に神託して、仲間の坊主と二人で村中へ火をつけて飛び廻らせた。村人の消火で大事に至らなかったが、以後村中仲良くすることを約し、旧九月に祭事をするようになったという。(小川守人氏)
今、その山の神と竜神が並んで祀られている様子が見られるのかどうかは不明。しかし、なんとも大胆なことをする神さまである。神託し、というが、憑依して村に火をつけて回ったということだろう。確かに水神格が怒ると水の守護がなくなり火事になる、という話は多いが、それにしても直截だ。
ところで竜神と山の神が並ぶというと妙な光景のようだが、水神と地神が並ぶというなら、関東の平野部、洪水に悩まされた土地なら今もよく見る光景だ。おそらくおなじ感覚だと思われる。
下伊那の鼎の方には、山の神が水場の蜘蛛になる、という話もある(それで大蛇・土砂災害の難を避けさせるのだが:「城山の山の神」)。そのあたりも一脈通じる感じなのかもしれない。