城山の山の神はよく人を助けた。ある夏、城が池で木の切り株に腰掛け、足を水につけ涼んでいる人がいたが、大山祇神が蜘蛛に化けて来て足を咬みかけた。驚いた人が切り株から腰を浮かすと、その大木は音を立てて水中に没した。
切り株の下には大蛇がいて、人を呑もうとしていたのを山の神様が蜘蛛に化けて知らせたのだ。また、飯田の狂犬が松川を渡って入ってきた時は、山の神が隠れ蓑になって村人たちを隠してくれた。
しかし、その後叩かれ逃げた狂犬は、真慶寺から帰る三人兄弟を噛み殺してしまった。それで別府の藪下に出て吠えていたところを撲殺した。(切石記)
鼎切石あたりの話だと思うが、城山は不明。飯田市で城山というと久米ヶ城の城山公園があるが、切石からは一里半も南のほうになってしまう。ゆえに、城が池というのもわからない。
ともあれ、蜘蛛が淵の話かというと微妙だが、前半の話の筋は蜘蛛が淵の話を意識したものではあるだろう。そこで、蜘蛛が山の神で人に危機を知らせている、という点が大変に注目される(ちなみに大山祇神とあるが、天狗のようなものと思ったほうがよいだろう)。
蜘蛛ヶ淵の話には、それが土砂災害の予告ではないかと思われる面があると思うのだが(「池の平」など)、このような話になるとそれが際立っているように見える。淵に落ち込む蛇を土砂災害と見れば、相当に端的な事例といえる。