大蛇と大水

長野県小県郡長和町

本沢川両岸はけわしい岩山の崖で、いくつも深い淵がある。中でも箱ぶちは奇岩に囲まれる神秘的なところだ。干ばつの折には、村人たちはこの淵にいばらなどを切り込んで雨乞いをしたという。

その本沢にある日二人の猟師がやってきた。奥深くへ来ると、常の獣道とは異なる、草を分けていった跡がある。何かと思って追うと、その跡は箱ぶちの岸でぷっつり切れていた。そこで二人が昼を取っていると、向こう岸の繁みで音がし、見ると大蛇がいた。

恐ろしさに顔を見合わせていた二人だが、若い方の猟師が鉄砲をとった。年上の猟師は、撃つな、と叫んだが、その言葉が終らぬうちに銃声がこだまして、見事に大蛇の頭を撃ち抜いた。大蛇は淵に沈んでもうその姿もなかったが、そのうちに淵からもうもうと霧が立ち昇り、黒雲が空いっぱいに広がった。

猟師たちは恐れて逃げ帰ったが、それから大粒の雨が幾日も降り続き大豪雨となり、大門をはじめ長久保や古町、立岩の村々で、数十軒の家が流され、数十名の人たちが亡くなった。いまだかつてなかった水害であったという。村人のなかには濁流とともに大蛇が流れ下るのを見たという人もあり、赤沼の池の主が流れ下ったのだろうと噂された。

児玉断『長門昔ばなし(第2集)』より要約

和田へと流れていく本沢のことと思う。和田には大嵐に一夜でできたという夜の池(よのいけ)という池があり、引いた話の大洪水の話と繋がるのかもしれない。夜の池は赤沼が一夜にして移ってきた、ともいうが、赤沼というのは今の女神湖のことで、隣りになるが。