甲賀三郎・上影

長野県南佐久郡佐久穂町

昔、太郎、二郎、三郎の兄弟がおり、蓼科の岳へ狩に行った。ある姫が連れていってくれと頼み、四人で行った。ところが、双子池で姫がいなくなってしまい、探すと深い穴の底の御殿の側にいた。三郎は「そこにいるのは時世の姫ではないか」と呼び、下から「そこにいるのは三郎ではないか」と姫が言った。

兄弟は藤もっこで姫を引き上げたが、姫が大切な法華経を忘れてきてしまった、と言い三郎が取りに降りた。しかし、御殿には天狗がおり、お経を持ち出せない。兄たちは三郎がいつまで待っても登らないので、藤つるを放してしまった。姫は兄たちに慰めらるも、三郎がいなければ生きている甲斐がないと、諏訪湖に入ってしまった。

一方の三郎が地下を進むと美しい村里に出た。村では立派なお武家様ともてはやされ、ある家に婿入りし、九年の年月がたち子も生まれた。それでも姫が忘れられず涙を流す三郎に、妻は九つのおむすびを持たせ、姫を探しに行くように言った。

こうして三郎が真楽寺のところに顔を出すと、子どもが「蛇が来た」と逃げ出した。三郎が驚いて湖にでも入ろうかと思っていると、向こうの諏訪湖で姫が招いていた。それで三郎は湖に入った。その後に、地下の妻も三郎を思い泣き、子どもに九つのおむすびを作ってもらい、諏訪湖のそばに上がった。諏訪湖の神渡りは、三郎が本妻のところへ一年、妾のところへ一年と通う道だという。

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より要約

ところで、縁起では三郎が蛇となったのはその維縵国の衣装を着たせいだといい、これを脱いで人に戻る(神となる前に人身に戻らないのが佐久の昔話となった甲賀三郎伝説の特徴ともいえる)。