大きな川に一本の枝の橋がかかっていた。振舞の時使う道具の不足の時は、何をどれ丈借して貰い度いと書いた紙を其の川に流すとちゃんとその橋の上に乗せてあったとのことである。ところが或る家の振舞のとき、その川に書いた紙を流してお椀を沢山借りた。そして、誤って一つのお椀をこわしてしまったが代りがないので、一ツ不足のまま返しておいたところ、其後誰が紙に書いて流しても借してくれなかったという。(横尾 宮崎玉治)
真田の横尾の話。語られた土地が舞台だったら、神川がその橋の架かった川だろうか。現在のどの橋になるのかは不明。話の筋の概要は滝淵などが舞台となる椀貸しの話の典型となる(「本社の池」などから)。
しかし、その願が掛けられ、膳椀が出現する舞台が橋であるという例は珍しい。確かに、これは土地境を舞台とする話であったろうと思えば、それが橋であるのは不思議ではないのだが、貴重な事例と言える。