河口湖大石の桑崎に大蛇が現れた。村人たちは逃げ惑ったが、ガムシャラで知られた弁造が、刃渡り二尺の大鎌を振り回し、大蛇に立ち向かった。いまにもひと呑み、というとき、幸いに手応えがあり、大蛇の首が血しぶきをあげて吹き飛んだ。
首を落とされた大蛇の胴体はのたうちまわって力尽きたが、栗あぜ十七畔をまたいでいたという。飛んだ頭は御坂の峰を越えて、神座山の東の池に飛び込むと竜神となってしまった。大蛇が退治された山は頭無(かしらなし)と呼ばれ、首が入った池は蛇池(じゃいけ)と呼ばれた。
御坂から流れる金川は荒れ川だが、氾濫するときには、蛇池から大水が噴き出すという。神座山裾に住む者は、このとき地下にあるブテッパラの地へ逃れると、水難を避けられると伝えられている。
頭を刎ねられた大蛇を頭無・首無と呼び、地名の由来などにする例が埼玉県下に見えるが(「首無しと首弁天」)、似たような話が河口湖畔にもある。
現状どこがどこに位置するのかよくわからないのだが(桑崎は河口湖の弁天島である鵜ノ島の対岸・神座や蛇池は笛吹市側)、「頭無の蛇」の一例ではある。間をつなぐ初鹿野あたりには、日本武尊が頭を刎ねた大鹿「無頭天神」の話もあり、関係があるかもしれない。